20200301

2月21日と24日に、お客様と小千谷縮・小千谷紬の作り人・久保田康夫さんを訪ね、

機織の見学に行って来ました。以前のひとり言でも記したかと思いますが、久保田さんは小千谷で織り人として仕事をしていたのですが、道路の拡張と年齢から一度は機織の仕事をやめようと、息子さんが住む長岡市に同居の為越しました。すると今度は仕事の都合で息子さんが転勤。また夫婦二人の生活に。そんな中、奥様が無形文化財・小千谷縮の5年間の講習を修了し、機織を始めたのを眺めておりましたら、久保田さんに職人魂が再び目覚め、機織を再開したのだそうです。

 工房とは言っても最初は息子さんが住んでおられた住まい、失礼ですが本当に普通の家です。その二階に機を置いて日々制作に携わっています。お伺いした時は小千谷縮のよこ絣の黒地のつなぎ柄が機に掛かっていました。久保田さんの得意とする柄です。単純な柄と複雑な柄をよこに段状に織るもので、普通はコストを考え単純な柄の部分は無地なのですが、あえて柄を入れて織っています。複雑な柄は何種類もあり、普通の人ですと図面や定規を使って規則正しい間隔で織るのですが、久保田さんは入れる柄の順番も決まりは無く、間隔も勘だそうです。そんなことを言っていますが、織り上がった部分を見ると違和感なく素晴らしい出来映えなのが不思議です。

織物は普通、織機に経糸を複数反分セットして織ります。今回見せて頂いた小千谷縮は2反分をセットして織っていて、今は2反目。最初の1反はわのわにあります。久保田さん曰く、今織っているつなぎ柄はこれで最後とのこと、こんな絣を括れる人がいないそうです。今、信頼できる括りができる人は久保田さんの知っている中では一人だそうです。その人ですらここまでの絣は難しいそうですし、コストの面からも無理だそうです。久保田さんの織るつなぎ柄の小千谷縮はこれが最後。そして わのわが頂いた縮とは別の柄付けと聞いて、是非とも求めたいと思っております。

 隣の部屋では奥様が重要無形文化財の小千谷縮の制作中です。ご主人は高機で織っていますが、文化財は地機という規定があります。地機とは腰かけて織る高機と違って自分の腰で経糸を張って織ります。姿勢も地に腰を下ろした感じで織りますので大変な作業です。これはこれで大変なのですが、この前の作業がもっと大変なことを今回知りました。

今まで無形文化財は簡単に言うと「国産の麻を使用し、糸作りは手績みで行い、地機で織り、最後に雪に晒して出来上がり」と思っておりました。織り人は来た糸を機に掛けて織るだけと思っていたのですが、奥さんが言うには届いた糸をそのまま織ることは出来ず、自分の織りやすい糸にする、という作業があるそうで、今機に掛かっている糸も昨年7月に届き、節を取ったり、繋ぎ目を直したり、一反分を織りやすく整理するのに12月までかかり、今年に入ってようやく織り始めたそうです。

織り人が自分に合った糸作りをするとは、どの資料にも書いてないことです。この作業が大切な事と多くの時間を費やすことを、今回初めて知りました。一反を作るのに一年以上の月日を要することに納得しました。

 隣の部屋からご主人のリズミカルな機の音が聞こえてくる中、奥さんは手で績んだ細い麻の糸を一本ずつ丁寧に織っています。奥さんがおっしゃるには織るスピードはご主人の十分の一くらいだそうです。最後に「大変ですね」と言うとお二人から同じ返事が返って来ました。「嫌なら続かないけど、機織が好きだからね」と。

 これからもどうぞお元気で、機織を楽しんで続けて下さい。

Comments are closed.